株式会社松下産業様の2022・2023年のカレンダーを制作しました。
2022・2023年のモチーフとなったのは、松下産業様が創業以来本社を構えている文京区本郷周辺を描いた山髙登氏の版画作品。山髙氏の描く昭和の何気ない日常は、地元の皆様の記憶に残る古き良き建物・景色を感じられるものであり、この地で長年総合建設業として歩んできた松下産業様にとっても思い入れのある大事な作品です。
このカレンダーでは、山髙登氏の版画を最大限に引き立てるデザイン、仕様で「まるで原画を見ているようなカレンダー」を表現しました。
原画の撮影、仕様のご提案、制作、印刷、製本とすべての工程を当社で担当しました。
オフィスビルやマンションの新築工事から大規模リニューアル工事、都市土木など、幅広い事業を展開している総合建設業の株式会社松下産業様。創業以来、文京区本郷に本社を構え、地域とともに発展を続けてこられました。
今回のカレンダーに使用されたのは、消えゆく東京の町並みを半世紀に渡って描き続けた版画家、山髙登氏の作品です。作品の中には本郷周辺を描いた版画が数多く残されており、地元である本郷の皆様への感謝の気持ちを込めたカレンダーにしたいという思いから選定されたということです。
カレンダーに対するこだわり、選定した作品への思いをご担当者様にお伺いしました。
弊社は毎年デザインにこだわったカレンダーを制作しているため、それに劣らないカレンダーを制作したいと考えておりました。
山髙登氏の作品を選んだ理由は、 古き良き建物・景色を尊重できる世の中であってほしいという弊社の願いに、山髙氏の作品がマッチしていたからです。
弊社は創業以来文京区に本社を構えているため、今回は文京区本郷周辺が描かれた作品を主に使用させていただきました。
デザインや仕様は、ヒアリングでいただいた「壁掛けカレンダーは実用性も兼ね備えたい」「卓上カレンダーは飾っても美しいものに」というご要望のもと、『実用性』と『美しさ』をキーワードに下記のコンセプトを設定し、検討しました。
【コンセプト】
「まるで原画を見ているようなシンプルで美しいデザイン」
このカレンダー制作で最も重視したのは、「作品とカレンダー部分(日付)の共存」です。山髙氏の版画を美しく引き立てながら、カレンダーとしての実用性を確保するためには、版画と日付部分が別々の印象を与えないようにする工夫が必要でした。
特に重要だったのが、版画の「紙色」の扱いです。版画には、ややクリームがかった和紙が使用されることが多く、絵柄の下部にはエディションナンバーとサインが記されています。通常、書籍などでは原画の雰囲気を保つため、サインを含めた外側の余白部分(紙色)をそのまま撮影して掲載するのが一般的です。しかし、この方法では、版画の紙色(クリーム色)と書籍の印刷用紙(白)の境界が明確になり、全体として分断された印象を与えてしまいます。
そこで今回は、版画とカレンダー部分を一体感のあるデザインにするため、版画の周囲の余白(紙色)を画像加工で消去する方法を選びました。この際、サインはそのまま残し、作品の価値や雰囲気を損なわないよう配慮しています。
この加工により、版画とカレンダー部分の間の境界がなくなり、両者が調和したデザインを実現しました。
用紙には[ヴァンヌーボV-FSスノーホワイト]を選定しました。
ヴァンヌーボはラフ・グロス系の用紙で、ざらざら・さらさらとした手触り(ラフ)を持ちながらも、インキのノリが良く、印刷時には艶やかな(グロス)発色を実現できるのが特長です。そのため、表情豊かな印刷物を仕上げることが可能です。
今回使用する山髙氏の原画はどれも発色が鮮やかで、さらに版画特有の和紙の柔らかな風合いも再現する必要がありました。また、「実用性も兼ね備えたい」「壁掛けカレンダーは書き込めるタイプにしたい」というご要望もあり、鉛筆・ボールペン・サインペンなど、さまざまな筆記具で書き込みが可能であることも重要な条件となりました。
これらの課題を解決するために選ばれたのが「ヴァンヌーボ」でした。その中でも特に白色度が高く、発色の良さを再現できる「スノーホワイト」を採用することで、原画の美しさと実用性の両立を実現しました。
真っ白な用紙に色彩豊かな版画、そこに直接書き込まれたようなサイン。
そして作品を邪魔せず共存するカレンダー。
デザイン・仕様の方向性が決まったら制作に移ります。
2022年のデザイン提案は計5回におよび、約3ヵ月間にわたりました。細かな修正はありましたが、当社が提示した方向性に基づき進行しました。
初回のご提案では、デザインの方向性や意図、仕様に加え、実際の紙面デザインを提案書にまとめてご確認いただきました。
制作において特に難しかったのは、使用する版画の縦位置と横位置の違いでした。どちらか一方だけが目立つと、版画の魅力を十分に引き出せません。
そこで、壁掛け・卓上ともに、縦位置・横位置の版画が均等に見えるよう、作品とカレンダー部分の比率を慎重に調整しました。また、使用者の視点に立ち、以下の点に配慮しました。
さらに、壁掛けカレンダーでは書き込みスペースを広く確保することを意識しました。
そして、卓上カレンダーの判型には正方形を採用しました。縦横いずれの版画も均等に収められるよう工夫し、日付部分の基本レイアウトは統一しつつ、版画の持つ抜け感を活かした配置に調整しました。これにより、毎月カレンダーをめくるたびに、新鮮なレイアウトを楽しんでいただけます。
ご担当者様に当社の提案についてのご感想を伺いました。
デザイン面とカレンダーとしての実用性どちらも重視したいという弊社の意図を、最大限汲んでいただいたデザインをご提案いただけたと思います。
当初は版画に合わせた(レトロな)雰囲気になると思ったのですが、良い意味で新しい印象でした。
カレンダー紙面の制作と並行して、作品の撮影と画像加工を進めました。
まずは原画をお借りし、撮影を行います。正しい色を再現するため、ホワイトバランスに注意を払いながら撮影しました。
撮影データが揃った後は、Photoshopを使用して色調補正を行います。今回は、作品とカレンダーの一体感を出すため、周囲の余白(和紙の紙色)を消去し、サインのみを残しました。
色調補正の工程は、大きく以下の3段階に分かれます。
① RAWフィルターでシャープネスを適用し、色の微調整
② 印刷機と同じ色調に調整されたインクジェットプルーフで原寸出力し、原画と比較しながら色調補正
③ 版画の紙色を取り除き、サインのみを残す
最も時間を要したのは②の作業です。縮小した画像やモニター上で色を見比べると、印象が異なり、原画に近づけることが難しいため、原寸サイズで出力して原画と比較する工程を繰り返しました。
当社では、印刷機とインクジェットプルーフの色調が一致するようにCMS(カラーマネジメントシステム)を構築しており、この工程で調整した色が最終的な印刷時の色となります。特に、薄い黄色や茶色、グラデーション部分の再現が難しく、何度も補正と確認を繰り返し、可能な限り原画に近い仕上がりを目指しました。
松下産業様には、まずインクジェットプルーフで色校正を行い、その後、本紙校正(実際に使用するヴァンヌーボV-FSスノーホワイトを用いた校正)で最終的な色をご確認いただきました。
印刷は、インクジェットプルーフで調整した色調を基準に、当社の標準印刷に基づいて行いました。山髙氏の版画特有の繊細な色彩表現や柔らかな風合いを忠実に再現するため、細心の注意を払いました。
そして、製本と加工は、版画の魅力を引き出し、かつ使いやすい仕様を採用しました。
壁掛けカレンダーは、シンプルで洗練された印象を与える「タンザック」製本方式を採用しました。この方式では、上部の綴じ部分に金具を使用せず、ホットメルトと呼ばれる糊を使用して短冊状の厚紙でくるむため、使用後に分別する必要がなく古紙としてリサイクルできます。また、切り離し部分にはミシン目加工が施されているので、使用済みのカレンダーも切り離しやすくなっています。
卓上カレンダーは、松下産業様が以前に採用されていた仕様を踏襲し、リング綴じ製本にゴム紐留めとしました。印刷用紙は壁掛けカレンダーと同様に白としていますが、台紙とゴム紐に差し色となる色を採用することで、版画の良さをさらに高めています。
また、カレンダー部分は台紙よりも一回り小さくして、額縁のような効果を生み出しています。
松下産業の皆様に完成品についての率直なご感想をお聞きしました。
挿絵の発色や印刷する紙等にもこだわったため、制作中に想像していたものを上回る完成度のカレンダーが出来上がったと感じました。 (ご担当者様)
お配りした方々から、素敵なカレンダーだと大変好評をいただきました。
お客様が飾って下さった弊社カレンダーを見た方から、是非譲ってほしいと連絡がきたこともございます。(営業部の皆様)
また、弊社の対応へのご感想やご要望もお聞きしました。
弊社の要望一つ一つに真摯にご対応いただきました。
また、デザイン面での調整などにもスピーディーに対応いただき、貴社に制作を依頼できてよかったと感じております。(ご担当者様)
2022年のカレンダーで好評をいただき、翌2023年も山髙登氏の版画をモチーフとしたカレンダーの制作を担当させていただきました。カレンダーをお配りしたお客様の中には、カレンダー使用後に版画部分を切り取り、飾っていただいた方もいたとのことで嬉しく思います。
松下産業様のカレンダーが、お客様の暮らしに彩りを添えるとともに、地域への思いを共有するきっかけとなれば幸いです。
これからもお客様の声を大切にしながら、より愛されるカレンダー制作に励んでまいります。
壁掛けカレンダー:B3(364mm×515mm)、13枚
卓上カレンダー:158mm✕165mm(カレンダー部分148mm✕148mm)、13枚
壁掛けカレンダー:タンザック製本
卓上カレンダー:リング製本
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